幼い頃から文学に親しんでいた鏑木清方は、生涯、樋口一葉や尾崎紅葉、泉鏡花の小説を愛読しました。挿絵画家となった清方が18歳の時、樋口一葉が夭逝し共に仕事はできませんでしたが、尾崎紅葉、泉鏡花とは単行本や雑誌の仕事をとおして深く交流しました。日本画へ専心してからも、清方は彼らの小説の世界観や登場人物を題材にたびたび作品を描き、中でも樋口一葉の『たけくらべ』の主人公・美登利を折に触れて描きました。
本展覧会では、清方が自ら「制作の水上(みなかみ)」と位置づけた、『たけくらべ』の美登利を描いた初期の代表作《一葉女史の墓》をはじめ、お宮と貫一の印象的な場面を表した《金色夜叉の絵看板》や泉鏡花の幻想的な文学作品に取材した《註文帖》など、清方を魅了した物語のヒロインを描いた作品や口絵を中心にご紹介します。